私の友人のMさんの家は、第一種低層住居専用地域の閑静な住宅街にある。
広い庭に枝垂れ桜が一本植えてあり、春になると桜の滝かと思わせるような美しい花を咲かせる。
自宅のリビングには、謎の高級感ある光沢のある床が広がりそこに軽井沢彫りの
総無垢仏壇が置かれている。桜が側面全面に彫られておりとても素敵な仏壇である。
特注のため相当高かったらしい。
仏壇のなかをみると桜の蒔絵の位牌が入っていた。よくみるとお母さまとお父様とお母さま?三人の戒
名が彫りこまれていた。
なぜ三人が彫ってあるのかMさんにきくと実は、Mさんの実母は、Mさんが小さい時にご病気で
亡くなってしまった。数年後お父様は親戚のすすめもあり後妻を迎えた。
そのためMさんのおうちの位牌には、Mさんの実母、実父、継母三人の名前で彫りこんだ。
私は、そういった事情を知らず長らく知らず継母が、実母であると思っていた。
立派な継母で、Mさんを実の娘のようにかわいがり、お弁当も一度もコンビニ弁当やパンなど持たせる
ことなく手作りしてくれたり、洋服も洋裁が得意な継母がよく手作りしてくれたそうである。
Mさんからすると愛情が重すぎると思うところもあったが、実母がいない寂しさはなかったそうだ。
実母も継母も桜が好きで、そのためお父様が庭に枝垂れ桜を植えた。
Mさんに私の家庭事情を話すと、人間らしくていいじゃないと笑った。パイプ椅子のことや
位牌で父を叩いたことなどMさんの綺麗な家庭からは想像できないドロドロ劇が逆に羨ましいと
言って笑った。
私の父が再婚し、二人が亡くなった時に母、父、あの女性、三名彫りの位牌をつくったら、
おそらく母から軽く呪われると思う。
Mさんの家は桜のお香が焚かれており、甘い優しい香がした。