幼稚園のころの幼馴染のMちゃん家の記憶である。
Mちゃんの家は、国道沿いから車で入ることができない。人がやっと通れるくらいの
森のトンネルが国道からMちゃん家に通じる入口である。
杉の森を切り開いて人が日々通ることで道ができている。おそらく3か月も人が通らなければ道はなくな
るであろう。私は、Mちゃんに行くときはこの森のトンネルを抜けて行く。途中、植生がかわり杉から
松林になる。そして急な坂をくだった先は一面田んぼになる。田んぼの細い畔を通り抜けると
その次に3ⅿ幅のきれいな水が流れている川がある。その川の橋をわたると築100年超えの土間と囲
炉裏がある古民家の家がMちゃん家だ。屋根は、現代風に吹き替えているが、中は、当時の間取りをそのままつかっていた。
自宅には、井戸が数本掘ってあり、炊事場、風呂場は井戸水をつかっていた。夏はひゃーと声が出るほ
ど冷たく、冬はちょっとだけ温かい。風呂桶も檜材の楕円形風呂で、この風呂桶が心底うらやまし
かった。薪で風呂を沸かしているので井戸水、薪の熱、すべてが体に優しい。
Mちゃん家には、練炭の掘りごたつがあった。「こたつの中にもぐりこまないで」とMちゃんに注意さ
れた記憶がある。その当時は意味がわからなかったが、・・・・・そういうことらしい。
Mちゃん家のお母さんは、日曜日などお仕事で出かけてしまう時には、手作りのおかずを
用意していた。私が遊びに行った日のお昼のおかずは、手作りのハムカツと自家栽培の
野菜炒めであった。白い皿にきれいに盛って、ラップがかけてあった。
Mちゃんは、昼になると冷蔵庫からだして、朝の残りの味噌汁と釜に入っているご飯を盛り一人で食事
をしていた。私は、Mちゃんが食事が終わるまで待っていた記憶がある。
私の家では、そういった母の優しさがなかったので、ハムカツをみるとこの
Mちゃん家のお母さんの優しさを思い出してしまう。
母親が、ハムカツをつくることは、普通のことであると思うが、私の母は、こ
の普通がなかったように思う。贅沢はしなくてもよいのだ、外食とか、そういうことじゃなくて、手作
りのハムカツを親が準備してくれる、それがとてもとうとい。
大人になったMちゃんは、きっと家族の誰かのためにハムカツをつくっているであろう。
ハムカツをみると、胸が締め付けられるような幸せなような、気持ちになる。