白川桔梗子は、父を墓で待ち伏せしている。
母の父に対する執念、執着は、恐ろしい。小さな頃から顛末を目撃した私としては
人に対して強い感情を持つことは放棄しようと思った。あと、ハンサムは敵だ。
母が、思春期の私に「晶子ちゃん、お金の苦労も大変だけど、浮気の苦労は、
100倍苦痛よ」と言った時の母の顔が忘れられない。
母は、死んでまでも父と一緒になりたいのだ。五条悟は、「愛ほど歪んだ呪いはないよ」と言ってい
た。執着という名の呪いだ。
私は、母が眠る北軽井沢にある白川家の集落墓地に墓参りに月に1回は熊鈴をけたたましく
鳴らしながら行っている。
浅間山の噴煙が早送りのように見えるところにある墓地には、カタクリや竜胆、金欄などの希少な
山野草が自生している。
私が小さいころは、父と母と私と彼岸や盆には、この集落墓地にご先祖の墓参りにきた。
墓参りの帰りに軽井沢銀座によって買い物をした。
お酒の飲めない父は、極度の甘党で、軽井沢の有名なソフトクリームを楽しみにしていた。
なぜ、母は、父に穏やかに優しく接することができなかったのかと思う。
父に想い人がいても、その方にお歳暮とお中元を贈るくらいの心の余裕はなかったものかと思う。
「うちの主人がお世話になっております」と…。